夜のオフィスで、企業SNS担当者がノートパソコンの前で投稿を出すかどうか静かに考えている情景

企業SNSのリスク管理・炎上対策まとめ|平時と有事の備え

「うちのSNS、炎上したりしないよね?」

会議のおわりぎわ、上司にそう聞かれて、少し言葉に詰まったことはないでしょうか。

「大丈夫です」と即答するのは、正直こわい。かといって「分かりません」とも言いたくない。気をつけてはいる。投稿前に読み返してもいる。でも、その「気をつけている」を、どう説明すればいいのか分からない。

そして家に帰ってから、ふと思い出す。今日出したあの投稿、変な受け取られ方をしていないだろうか——。

この落ち着かなさは、あなたの注意力が足りないせいではありません。リスク管理が、まだ「気をつける」という気持ちの形のままで、仕組みの形になっていないだけです。気持ちは持続しませんが、仕組みは持続します。ここを一緒に整理していきましょう。

結論:企業SNSのリスク管理は、「炎上させない技術」ではなく、3つの層でできています。
出す前に減らす(判断の線と、もうひとつの目)
早く気づく(見る時間を決めておく)
起きたあと、広げない(連絡の道と、言葉の準備)
平時にやることは5つ、有事の最初は「気づく・止める・伝える」の3手だけです。
そして、全部そろえる必要はありません。まず作るなら「連絡の道」(誰に、どの順で上げるか)1つ。これが決まっているかどうかで、いちばん差が出ます。

「炎上対策」という言葉が、なぜ動きにくいのか

炎上対策をしよう、と言われても、手が止まりませんか。

止まって当然だと思います。「炎上」はひとつの現象を指す言葉ではないからです。入口がまったく違うものが、燃えたあとの姿だけ同じに見えている。だから「炎上対策」という一語のままでは、何から手をつければいいのか決められません。

実務で起きることを入口で分けると、だいたい次の5つに収まります。

入口起きることまず見るところ
表現言い回しが、意図と違う意味に受け取られる差別・ジェンダー、断定しすぎる言い方
権利他人のものを、うっかり使ってしまう画像・文章の引用、写り込み、動画のBGM
表示「宣伝であること」が伝わっていないPR表記、キャンペーンの応募規約
操作出すつもりのないものが出てしまう誤投稿・誤爆、アカウントの乗っ取り
タイミング内容は良いのに、出す時期が合っていない災害・時事、予約投稿、過去投稿の掘り起こし

見ていただくと分かるとおり、5つのうち4つは「悪意」とも「炎上」とも関係がありません。普通に仕事をしていて、普通に起きることです。

つまりリスク管理とは、悪いことをしないための監視ではなく、普通に働いていると起きるズレを、出る前に一段減らしておく作業です。そう考えると、少し肩の力が抜けませんか。ここから先は、この5つの入口に対して、平時に何をしておくかの話になります。

それぞれの入口の中身は、個別の記事で詳しく整理しています。今すぐ全部読む必要はありません。気になったところだけ、あとで開いてみてください。

リスク管理は「3つの層」で考える

5つの入口すべてに個別の対策を用意しようとすると、たぶん途中で力尽きます。実務では、次の3つの層で考えるほうがずっと持ちます。

第1層:出す前に減らす。 判断の線を決めておき、自分以外の目をひとつ通す。ここでほとんどが止まります。

第2層:早く気づく。 それでも、すり抜けるものは必ずあります。気づくのが半日早いだけで、その後の大変さはまったく変わります。

第3層:起きたあと、広げない。 ゼロにはできません。だから「起きたときにどう動くか」を先に決めておく。これが最後の層です。

大事なのは、第1層を完璧にしようとしないことです。100%止める仕組みを作ろうとすると、確認の段数が増え、投稿が出せなくなり、そのうち「間に合わないから」と誰かが飛ばすようになります。そこそこの第1層と、ちゃんとした第3層。この組み合わせがいちばん現実的で、いちばん安心して眠れます。

平時にやっておく5つ

優先順にならべます。上から順に、できるところまでで大丈夫です。

1. 連絡の道を決める(いちばん最初)

意外に思われるかもしれませんが、最初に決めるのは投稿のルールではなく、何かあったとき、誰に、どの順で伝えるかです。

理由はひとつです。これだけは、有事にはもう決められないからです。表現のルールは、あとから足せます。チェックリストも、明日作れます。けれど「今すぐ誰に連絡するか」を、通知が鳴り続けている最中に考えるのは、かなりきついことです。

決めるのは3つだけです。

3つめが、地味にいちばん効きます。「勝手に止めていいのか」で迷う数十分が、いちばん惜しいからです。→ 企業SNSの緊急時連絡体制|すぐ連絡が回る仕組みの作り方

2. 判断の線を、1枚にまとめる

「これは出していい/これは避ける」の線が、担当者の頭の中にしかない状態は、少ししんどいものです。判断のたびに、あなたが個人として責任を引き受けることになるからです。

線を紙に移すと、判断が「あなたの意見」から「うちのルール」に変わります。他部署に説明するときも、断るときも、ずいぶん楽になります。

書くのは長い文書でなくて構いません。1枚に、避ける話題、迷ったら止める基準、言葉づかいの決めごと。それだけです。→ SNS運用ガイドラインを社内に浸透させる方法投稿のトーン&マナーガイドの作り方

社員の私的アカウントについての線引きも、平時に決めておきたいものの一つです。→ ソーシャルメディアポリシーの作り方

3. 「作る人」と「見る人」を分ける

自分で書いた文章の危なさは、自分ではいちばん見つけにくいものです。書いた本人には、意図が見えてしまっているからです。

だから、誰でもいいので、投稿前にもうひとつ目を通す。専門知識は要りません。見るのは3つで十分です。

  1. 事実と固有名詞(社名・人名・価格・日付)
  2. 画像と本文が合っているか
  3. 別の意味に取られないか

段数は少ないほど回ります。3人も4人も通す形にすると、必ず形骸化します。→ 企業SNSの投稿承認フロー企業SNS投稿前チェックリスト

過去の失敗例を先に見ておくと、「危ない匂い」に気づきやすくなります。→ 企業SNSのNG投稿・失敗例まとめ

4. 気づく仕組みを持つ

見張り続ける必要はありません。見る時間を決めておくだけです。

朝と夕方に数分、自社名やサービス名で検索して、通知の量がいつもと違わないかを見る。これだけで、気づくまでの時間はぐっと縮まります。大事なのは頻度より、「見る」を予定に入れておくことです。気合いで見ようとすると、忙しい日ほど抜けます。→ 炎上の兆候に早く気づくエゴサ習慣

5. 言葉を、先に用意しておく

お詫びの文章は、書くのがいちばんつらい文章です。しかも、いちばん急かされる文章でもあります。

だから平時に、構成だけ作っておきます。何が起きたか/何が問題だったか/どうするか/今後どう防ぐか。この4つの並びを決めておくだけで、有事に文章を組み立てる時間が消えます。→ 企業SNSお詫び・謝罪文の書き方

あわせて、アカウントのログイン情報と権限も見ておきたいところです。個人のメモやチャット履歴に置いたままだと、担当者が休んだ日や退職したあとに、止めたいのに止められない状態になります。→ 企業SNSの乗っ取り対策

有事:最初の3手は「気づく・止める・伝える」

有事の最初の3手として、気づく・止める・伝えるの順に動くことを示した図
何かあったときの最初の3手。順番はこれだけで十分。まず気づき、次に予約投稿を止め、それから社内に伝える。

実際に何かが起きたとき、頭は思ったより働きません。だから、覚えることは少ないほうがいい。気づく・止める・伝える。この3つだけで大丈夫です。

1.気づく。 反応がいつもと違う、と感じたら、まず何が起きているのかを事実として押さえます。どの投稿か。どういう指摘か。どのくらい広がっているか。ここで返信はしません。 事実が固まる前の一言が、いちばん増幅しやすいからです。

2.止める。 次にやるのは、予約投稿を止めることです。これは本当に見落とされます。裏で動いている予約投稿が、真剣な話題の最中に明るい宣伝を出してしまう——この二次被害は、最初の出来事より痛いことがあります。止めるのは戻せますが、出たものは戻せません。迷ったら止めて構いません。→ 企業SNSを止める判断|災害・大きな出来事のとき

3.伝える。 そして社内へ。外に何か出すより先に、社内が先です。 上司が社外から先に知る状態になると、対応そのものより社内の混乱のほうが大きくなります。

このあと、消すのか、説明するのか、謝るのかを決めていきます。その判断の順番は、こちらに詳しくまとめています。→ 企業SNS炎上対応フロー|起きる前に決める一次対応の型企業SNS誤投稿の対応|削除と謝罪、どっちが先か

そして、やらないほうがいいことも3つだけ覚えておくと安心です。

3つめが、いちばん大事です。SNSの反応は24時間流れ続けますが、あなたが24時間対応する必要はありません。「今日はここまで、明日の朝に上司と決める」と区切っていい。それは逃げではなく、判断を守るためのまっとうな手順です。

「炎上」と「ふつうの批判」を分けて見る

もうひとつ、実務で効く見方をお伝えします。

厳しいコメントが来ると、心臓が跳ねますよね。でも、厳しい意見のすべてが炎上ではありません。これを分けずに全部を有事として扱うと、気持ちが持ちません。

おおまかな見分け方は、次のとおりです。

この線引きがあると、反応するかどうかを気分ではなく基準で決められるようになります。→ SNSのネガティブコメント対応|スルーしていい基準と心の守り方企業SNSの誹謗中傷・悪質コメント対応|通報とブロックの線引き

収まったあと:振り返りを、犯人探しにしない

落ち着いたあとの振り返りは、やり方をまちがえると、次のリスクを増やします。

「誰が書いたのか」を問う場になると、その後みんなが投稿を出さなくなるからです。攻めた企画が消え、当たりさわりのない投稿だけが残り、アカウントは静かに枯れていきます。

見るのは人ではなく、どこで止められたかです。作る段階か、確認の段階か、出したあとか。止められる場所が見つかれば、そこにひとつ確認を足せば済みます。

そして、同じ視点で過去の投稿もざっと見ておくと、掘り起こしによる再燃を減らせます。→ 企業SNS過去投稿の棚卸し|掘り起こし炎上を防ぐ点検の手順

あなたへの影響

備えがそろってくると、変わることが3つあります。

「大丈夫です」と言えるようになります。 根拠なしの「大丈夫」ではなく、「投稿前に2人で見ています。何かあれば◯◯さんにすぐ上げる形にしています」と説明できる。上司が知りたいのは、実は絶対の安全ではなく、この会社の備えの形のほうです。

判断を、ひとりで抱えなくてよくなります。 リスク管理の本当の意味は、事故を防ぐことよりも、責任の置き場所をはっきりさせることにあります。線とルートが決まっていれば、それは会社の判断になります。担当者ひとりの度胸で支える状態から降りられます。

攻めた企画が出せるようになります。 これは意外に思われるかもしれません。でも、守りが決まっていないアカウントほど、担当者は無意識に安全な投稿だけを選びます。受け止める用意があるから、少し踏み込める。 備えは、ブレーキであると同時にアクセルでもあります。

明日やること

一度に全部そろえなくて大丈夫です。明日はここまでで十分です。

  1. 一次連絡先を1人決めて、その人に伝える(「何かあったら、まず◯◯さんに連絡します」と口に出すだけで成立します)
  2. 「予約投稿を止めるのは、報告前に自分の判断でやってよい」を確認しておく
  3. 予約投稿の一覧を開いて、今週出る予定のものを目で見ておく
  4. 投稿前に見てもらえる人を1人、頭の中で決めておく(正式な承認フローでなくて構いません)
  5. 自社名で検索する時間を、朝か夕方のどちらかに3分だけ入れる

1と2だけで、いちばん危ないつまずきはかなり減ります。残りは、来週以降で十分間に合います。

チェックリスト(保存用・企業SNSリスク管理)

初回は「平時:連絡の道」の欄だけできれば合格です。 残りは、運用しながら足りないと感じたところから足していけば十分です。

平時:連絡の道

平時:出す前に減らす

平時:気づく・備える

有事:最初の3手

あとで

朝のオフィスで、企業SNS担当者が落ち着いた表情でその日の投稿を確認している情景

リスク管理の記事を最後まで読んでくださった、ということは、あなたはもう十分に慎重な人です。これ以上、気をつけようとしなくて大丈夫です。必要なのは、もっと気をつけることではなく、気をつけなくても回る形にしておくことでした。備えは、一日でそろうものではありません。一次連絡先をひとつ決める。予約投稿の一覧を開いてみる。それだけでも、今日より明日のほうが確実に安全になります。何かあったとき、あなたひとりが背負う仕事ではありません。まずは、いちばん上の1行から動かしてみてください。

よければ、こちらも

備えが整ったら、日々の数字も落ち着いて見られるようになります。→ エンゲージメント率 計算機。企業SNS運用の実務ヒントは、メールでもお届けしています。よかったら受け取ってみてください。

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