
企業SNSの表現チェック|差別・ジェンダーで配慮したい言い回し
投稿文を書き終えて、最後にもう一度、上から読み返す。
だいたいは問題ない。でも、ときどき一行だけ、指が止まる。
「この言い方、誰かに引っかからないかな」。かといって、何がどう引っかかるのかは自分でもうまく言えない。社内に相談できる人もいない。結局、なんとなく言葉を丸めて、なんとなく送信する——そんな夜を、何度か過ごしていませんか。
これは、あなたの感覚が鈍いから起きていることではありません。引っかかるかもしれない、と気づけている時点で、いちばん大事な部分はもう働いています。足りないのは感度ではなく、「どこを見ればいいか」の目印だけです。
今日は、その目印を3つに絞ります。全部を覚える必要はありません。読み返しのときに、3回だけ自分に聞けば十分です。
結論:投稿文を読み返すとき、次の3つだけ自分に聞いてみてください。
① まとめない:人を属性でひとくくりにしていないか(「女性はみんな」「若い子は」)
② 決めつけない:読む人の暮らしや家族の形を、勝手に前提にしていないか
③ ネタにしない:誰かの見た目や困りごとを、笑いの材料にしていないか
引っかかったときの直し方は2つだけ。主語を小さくする(「みんな」→「〜な方」)と、言い切りをやめる(「〜です」→「〜な場合もあります」)。
これは言葉狩りではありません。安心して送信ボタンを押すための道具です。
何が起きているか:悪意ではなく、手癖から出てくる
配慮に欠ける表現でつまずくとき、そこに悪意があることはほとんどありません。実際に起きているのは、もっと地味なことです。
- 昔から使われてきた言い回しを、疑わずに使ってしまう:社内資料やチラシで長く使われてきた言葉が、そのまま投稿に流れ込む
- 他社の投稿を参考にして、表現ごと持ってくる:伸びている投稿の型を真似すると、言い回しも一緒についてくる
- 急いでいて、読み返しが1回になる:時間がないときほど、書いた直後の自分の目でしかチェックできない
- テンプレを使い回している:去年作った定型文の中に、当時は違和感がなかった言葉が残っている
- 自分の感覚だけで判断している:判断材料が「自分がどう感じるか」しかないので、自分と違う立場の人の見え方が入ってこない
つまり、個人の意識の問題というより、確認する仕組みがないだけです。仕組みがないところを気合いで埋めようとすると、毎回同じ場所で疲れます。
もうひとつ、正直にお伝えしておきたいことがあります。配慮の基準は、時代とともに変わります。 10年前に普通だった言い方が、今は避けられていることがある。逆に、今の基準もこれから変わっていきます。だから「一度覚えたら終わり」にはなりません。
これは怖い話ではなく、完璧を目指さなくていい理由です。今の自分が知っている範囲で確認して、気づいたときに直す。それで十分に誠実な運用になります。
配慮したい表現を見る3つの問い

① まとめない:人を属性でひとくくりにしていないか
いちばん出やすいのがここです。性別・年齢・国籍・職業・地域などで人をまとめて、その集団に共通の性格や好みがあるかのように書いてしまう形です。
- 「女性はやっぱり甘いものが好きですよね」
- 「若い子はこういうの分からないかもしれませんが」
- 「〇〇県の人は、みんなおおらかで」
書いている側は、親しみを込めているつもりのことが多いです。ただ、読む側からすると「自分は違うんだけど」となる。そして、そう思った人ほど黙って離れていきます。
直し方は、主語を小さくすることです。「女性は」ではなく「甘いものがお好きな方は」。属性ではなく、その商品や話題に関係のある行動で呼びかけると、意味を落とさずに角が取れます。
② 決めつけない:読む人の前提を勝手に置いていないか
これは①より気づきにくい型です。悪い言葉は使っていないのに、「読む人はこういう暮らしをしているはず」という前提が、文の中にそっと入っている状態です。
- 「お父さん・お母さんへ」→ 保護者は父母だけとは限りません
- 「ご主人と一緒にどうぞ」→ 家族の形も、パートナーの呼び方もいろいろです
- 「実家に帰省するこの時期」→ 帰る実家がある人ばかりではありません
- 「歩いて回るのが楽しいお店です」→ 歩くことが前提になっています
どれも、悪気なく書かれる言葉です。直し方は、対象をひとつ広げること。「お父さん・お母さん」は「ご家族の方」に、「ご主人と」は「大切な方と」に。それだけで、読んだときに置いていかれる人が減ります。
なお、性のあり方についての社会の受け止め方も年々変わっています。2023年6月には、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性への理解を広げることを目的とした法律(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)も施行されました。企業アカウントに罰則が下るといった性質の法律ではありませんが、「家族=父・母・子ども」を当然の前提として書かないというのは、これからの投稿では自然な感覚になっていくと思います。
③ ネタにしない:誰かの困りごとを笑いの材料にしていないか
「中の人」の人柄を出そうとして、いちばん事故が起きやすいのがここです。笑いを取ろうとするとき、私たちはつい誰かを下げることで落差を作ってしまいます。
- 見た目(体型・髪・背の高さ)をいじる
- 「〇〇できない人あるある」で、できないことを笑う
- 特定の職業や立場を、下に見た言い方でネタにする
- 方言やなまりを、おもしろい要素として使う
自虐なら安全、とも言い切れません。担当者本人が自分の体型を笑いにしたつもりでも、同じ体型の読者は「そういう扱いなんだ」と受け取ることがあります。
直し方は、笑いの対象を「人」から「状況」に移すことです。「不器用な私」を笑うのではなく、「箱を開けたら緩衝材が大量に出てきた朝」を笑う。人ではなく出来事に向けると、誰も傷つけずに親しみが出せます。
具体例:言い換えの早見表
そのままコピーして、手元のメモに貼っておける形にしました。ここに載っていない言葉も、考え方は同じです。
| 場面 | よくある言い方 | 直すとしたら | なぜ |
|---|---|---|---|
| 呼びかけ | 主婦のみなさんへ | 毎日ごはんを作っている方へ | 家事をするのは主婦だけではない |
| 家族 | お父さん・お母さんへ | ご家族の方へ/保護者の方へ | 家庭の形はひとつではない |
| パートナー | ご主人/奥さま | パートナーの方/ご家族 | 呼び方も関係の形もさまざま |
| 性別と役割 | 女子力が高い | 気配りが行き届いている/盛り付けが丁寧 | 中身を具体的に言えば性別は要らない |
| 年齢 | おじさん・おばさんでも分かる | 初めての方でも分かる | 年齢と理解度は関係がない |
| 年齢 | 若い子には需要ないかも | 初めて触れる方には少し難しいかも | 世代でくくらず、状況で言う |
| 体・見た目 | チビでも履ける/デブでも着られる | 背が低めの方にも/ゆったりしたサイズも | 見た目を下げる言葉を使わない |
| 国籍 | 外国人なのに日本語が上手 | 日本語でも案内しています | 「なのに」に前提が入っている |
| 職業 | たかが事務仕事 | 事務の仕事 | 上下をつける言葉を足さない |
| 能力 | 誰でも簡単にできます | 手順どおりに進めれば作れます | 「誰でも」ができない人を置き去りにする |
「障害」の表記(障害/障がい/障碍)のように、正解がひとつに定まっていない言葉もあります。こうしたものは無理に自分で決めず、自社の広報・人事が使っている表記や、取引先・自治体の表記に合わせるのがいちばん安全です。法令や公的な文書では「障害」が使われています。
怖がりすぎなくて大丈夫です
ここまで読んで、「じゃあ何も書けないのでは」と感じたなら、少しブレーキをかけさせてください。
配慮を意識しすぎると、投稿から人の気配が消えていきます。当たり障りのない、誰にも刺さらない文章になってしまう。それは企業SNSにとって、別の意味で困ったことです。
線引きの目安は、シンプルにひとつです。
その一行を、そこに書かれている立場の人が読んでも、気持ちよく最後まで読めるか。
これに「たぶん大丈夫」と思えるなら、進んで構いません。判断がつかないときだけ、次の節の「もうひとつの目」を使ってください。
それでも、うっかり出てしまうことはあります。 そのときは、指摘を受け止めて直せばいい。気づいた時点で静かに修正し、必要なら一言添える。それができる会社は、むしろ信頼されます。完璧に出すことより、直せることのほうが大事です。
具体例:ひとりで判断しないための「もうひとつの目」
一番効くのは、実は言葉のリストではなく、自分以外の目を1つ通すことです。ひとり運用でも作れます。
- 一晩おく:書いた直後の自分と、翌朝の自分は別人です。予約投稿にしておいて、朝に1回だけ読み返す
- 読み手役をひとり決めておく:同僚でも家族でもいい。「気になったら遠慮なく言って」と頼んでおくだけで、視点が1つ増えます
- 声に出して読む:黙読では通り過ぎる言葉が、音にすると引っかかります。これはひとりでもすぐできます
- 迷ったら削る:入れるか迷った一行は、たいてい無くても意味が通ります。削って読み直して困らなければ、そのままで大丈夫
急ぎの投稿でこれが全部できないときは、声に出して読む1つだけやってください。15秒で終わって、効き目はいちばん大きいです。
生成AIに下書きを書かせているなら、AIの文章にも古い言い回しが混ざることがあります。学習元の文章に含まれていた言葉が、そのまま出てくるためです。AIの出力こそ、この3つの問いを通してから使ってください。
あなたへの影響
3つの問いを習慣にすると、こんなふうに変わっていきます。
- 投稿前の迷う時間が短くなる:漠然と不安だったものが、3つの確認に置き換わります
- 説明できるようになる:「なぜこの表現にしたのか」を言葉にできると、上司や他部署にも通せます
- 炎上の芽が減る:大きな炎上の入口は、たいてい小さな配慮不足の一行です
- 書ける範囲がむしろ広がる:危ない場所が分かると、その手前までは安心して踏み込めます
最後のものが、実はいちばん大きいと思っています。どこが危ないか分からない状態がいちばん筆を止めるからです。目印があると、人は思い切って書けます。
明日やること:3ステップ
- 上の早見表を、投稿を書く場所のすぐそばに置く(メモアプリでも、机の付箋でも構いません)
- 次の1投稿だけ、送信前に「まとめない・決めつけない・ネタにしない」を口の中で3回唱えて読み返す
- 使い回しているテンプレを1つだけ開いて、同じ3つで見てみる(全部でなくていい。よく使うもの1つで十分)
3は、時間があるときで大丈夫です。1と2だけなら、今日中に終わります。
配慮が必要な表現 チェックリスト
- まとめていないか
- 性別・年齢・国籍・地域・職業で人をひとくくりにしていないか
- 「みんな」「やっぱり」「〜な人は」で始まる決めつけがないか
- 主語を「その話題に関係のある行動」に置き換えられないか
- 決めつけていないか
- 家族の形(父母・夫婦・子どもの有無)を前提にしていないか
- 帰省・旅行・外出など、できる人が限られることを当然としていないか
- 体の動きや感覚(歩く・見る・聞く)を前提にした言い方になっていないか
- ネタにしていないか
- 見た目(体型・髪・身長)に触れて笑いを取っていないか
- 「〇〇できない人」を笑う構図になっていないか
- 方言・なまり・出身をおもしろい要素として使っていないか
- 自虐が、同じ立場の読者を巻き込んでいないか
- 出す前に
- 声に出して1回読んだか
- 迷った一行を、削っても意味が通るか確かめたか
- 判断がつかないものを、ひとりで決めずに誰かに見てもらったか
- 表記が分かれる言葉を、社内の表記に合わせたか
全部そろわなくても大丈夫です。声に出して1回読めたら、その日はもう十分です。
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出す前の確認をまとめて見直したいときは、企業SNS投稿前チェックリストもどうぞ。企業SNS運用の実務ヒントは、メールでもお届けしています。よかったら受け取ってみてください。

投稿を書き終えて指が止まったあの夜、あなたは自分のためではなく、読む誰かのために立ち止まっていました。
その立ち止まりは、面倒な性格ではありません。アカウントの向こうに人がいると、ちゃんと思えているということです。それはいくらノウハウを集めても身につかない部分で、あなたはもう持っています。
あとは、毎回ゼロから絞り出さなくていいように、3つの言葉にしておくだけ。まとめない、決めつけない、ネタにしない。次に指が止まったとき、この3つを思い出してみてください。きっと、前より早く前に進めます。