
ソーシャルメディアポリシーの作り方|社員の私的SNS利用ルール1枚
「社員のSNS、なんかルール作っといて」。
会議のあと、上司から軽い調子でそう振られて、席に戻ってから固まってしまう。だって、社員が休日に何を投稿するかは、本来その人の自由です。そこに会社がどこまで口を出していいのか、正解が見えませんよね。かといって「何もない」ままだと、いつか誰かの投稿でヒヤッとする日が来るかもしれない——その板挟みで、白紙のメモを前に手が止まる。
その迷いは、まっとうな迷いです。ソーシャルメディアポリシーは、社員を取り締まるための書類ではありません。「ここまでは自由、ここからは会社に相談」の線を先に引いておくことで、社員が安心して発信できるようにするための1枚です。ここでは、締めつけずに、それでも事故を減らせる作り方を一緒に整理していきます。
結論:禁止リストから作らないことです。「守る対象は社員のほう」という立場をはっきりさせて、次の順番で決めていきます。
- 会社が踏み込まない範囲を、先に明記する
- 決めるのは「投稿の中身」ではなく、立場の明かし方と出してはいけない情報の2つに絞る
- 困ったときの相談先と「止めていい」を、必ず書き添える
- 完璧を目指さず、A4・1枚から始める
そもそも、なぜ「私的アカウント」のルールがいるのか
社内のSNS運用ガイドラインは、会社の公式アカウントを守るものです。でも、実際にヒヤッとする場面は、公式アカウントの外側でも起こります。
- 社員が自社の新商品を、発表前に「もうすぐ出ます」と個人アカウントで書いてしまった
- 職場の写真をあげたら、背景のホワイトボードに取引先名が写っていた
- 自社商品を私的アカウントで熱心にすすめていて、社員だと分かる人には分かる状態だった
- 会社への不満を書いた投稿が、社名まで特定されて広まった
大事なのは、これらのほとんどが悪意ではなく「知らなかった」から起きているということです。社員は、会社に迷惑をかけようと思って投稿していません。ただ、どこからがまずいのかを教わっていないだけです。
だからポリシーの役割は、責めることではなく、線を先に見せておくこと。ルールがないまま事故が起きると、いちばん困るのは投稿した本人です。あとから「常識で考えてよ」と言われるのは、あまりに酷ですよね。ポリシーは、その「あとから責められる」から社員を守る側にあります。
ポリシーに入れる5つの要素

ポリシーというと分厚い規程を想像しますが、最初はA4・1枚で十分です。入れるのは、次の5つだけ。
- 範囲:誰の・どのアカウントの話か
- 自由:会社が踏み込まないことの明記
- 明かす:会社の立場との関係をどう示すか
- 出さない:外に出してはいけない情報
- 相談:困ったときの窓口と「止めていい」
1. 範囲|「これは私的アカウントの話」とはっきり書く
いちばん最初に、対象をはっきりさせます。ここが曖昧だと、読む人は「監視されるのかな」と身構えてしまいます。
- 対象:社員が個人として持っているSNSアカウント
- 対象外:会社の公式アカウント(そちらは運用ガイドラインに従う)
- 会社は、私的アカウントの提出・登録・報告を求めない
とくに3つ目は、書いておくと空気が変わります。「アカウントを申告しろ」という運用は、社員の心理的な負担が大きいわりに、実務上ほとんど機能しません。会社の公式アカウント側のルールをまだ1枚にできていなければ、「企業SNSのトーン&マナーガイドの作り方」から先に整えるとスムーズです。
2. 自由|「ここには踏み込まない」を先に書く
ここが、この1枚でいちばん大事なところかもしれません。ルールを渡されると、人はまず「何を禁止されるんだろう」と身構えます。だから、制限より先に自由を書きます。
■ 会社が口を出さないこと
・休日や勤務時間外に、何をどれだけ投稿するかは自由です
・趣味・私生活・友人とのやりとりに、会社は関与しません
・会社への意見や不満を持つこと自体を、禁止するものではありません
・このポリシーは、社員の発言を監視するためのものではありません
社員の私生活上の言動を会社が広く制限することには、法律上も限界があると一般に説明されています(労働契約や就業規則との関係は会社ごとに事情が異なります)。だからこそ、書けるのは「業務や会社の情報に関わる部分だけ」です。そこを自分たちで先に宣言しておくと、ポリシーが「監視の道具」ではないことが伝わります。
3. 明かす|社名を出すとき・自社商品にふれるとき
私的アカウントでも、社員だと分かる状態で発信すると、その投稿は会社の意見として受け取られることがあります。ここは、ふたつに分けて考えると整理しやすいです。
(a) プロフィールや投稿で会社名を出す場合
「個人の見解であり、所属する組織の見解ではありません」といった一文をプロフィールに置く運用は広く行われています。ただし、この一文があれば何を書いてもいい、という免罪符ではありません。読んだ人がどう受け取るかは、書き手側では決められないからです。「書いておくと誤解が減る」くらいの位置づけで伝えるのが誠実だと思います。
(b) 自社の商品・サービスをすすめる場合
ここは少し慎重に扱いたいところです。景品表示法では、事業者の表示なのに、それが分からない形で行われるもの(いわゆるステマ)が2023年10月から規制の対象になっています。社員が自社商品をすすめる投稿も、会社の関与の度合いによっては「事業者の表示」とみなされることがあるとされています。
判断は個別の事情によるので、ここで白黒つけようとしないでください。ポリシーには「自社商品にふれるときは、社員であることが分かる形にする」「投稿を会社から依頼する場合は、必ず担当に相談する」と書いておき、実際の判断は広報・法務と、消費者庁の運用基準といった一次情報で確認します。表記の考え方そのものは「ステマ規制を踏まえたPR表記のルール」で整理しています。
4. 出さない|情報の線引きだけは、はっきりと
自由を広く認めるぶん、ここだけは具体的に書きます。抽象的な「機密情報の漏洩を禁止する」ではなく、現場でイメージできる粒度にするのがコツです。
- 発表前の商品・サービス・価格・取引先の名前
- お客様の氏名、写真、注文内容など個人が特定できる情報
- 社内の資料、システム画面、会議のホワイトボード
- 職場で撮った写真の背景に写り込んだもの(伝票、モニター、名札、社員証)
- 同僚が写った写真を、本人の了解なくあげること
とくに写り込みは、悪意ゼロで起きる代表格です。「SNS投稿の写り込みチェック」で挙げた確認ポイントは、公式アカウントだけでなく社員の私的投稿にもそのまま使えます。ポリシーにリンクを1本そえておくと、読んだ人がすぐ動けます。
5. 相談|「迷ったら止めていい」を書き添える

ルールをどれだけ書いても、現実には必ず「これ、どっちだろう」が出ます。そのときに相談してもらえるかどうかで、事故の数はかなり変わります。
- 迷ったら、投稿前に担当(○○)に聞いてください
- 判断に困ったら「出さない」を選んで大丈夫です
- 相談したこと自体を、マイナスに評価することはありません
- 出してしまったあとに気づいたときも、責めません。まず知らせてください
最後の2つは、必ず入れてほしいところです。人は、怒られるのが怖いと相談しません。そして相談されないまま時間が経つほど、対応は難しくなります。「先に言ってくれてありがとう」が成立する空気が、いちばんの安全装置です。万一のときの動き方は「企業SNSの炎上対応フロー」にまとめてあります。
そのまま使える|ソーシャルメディアポリシーのたたき台
コピーして、自社の言葉に直して使ってください。「○○」の部分だけ埋めれば、たたき台としては形になります。
■ ソーシャルメディアポリシー(社員の私的なSNS利用について)/○○社
このポリシーは、みなさんの発信を制限するためのものではありません。
知らないまま事故に巻き込まれて、あとから責められることがないように、
「ここまでは自由」「ここは相談」の線を、先にはっきりさせておくためのものです。
【1. 対象】
・社員が個人として利用しているSNSアカウント
・会社の公式アカウントは対象外(別途、運用ガイドラインに従います)
・会社は、私的アカウントの申告・提出を求めません
【2. 会社が口を出さないこと】
・勤務時間外に、何をどれだけ投稿するかは自由です
・趣味・私生活・交友に、会社は関与しません
・このポリシーは、社員の発言を監視するためのものではありません
【3. 会社名を出して発信するとき】
・プロフィールに「個人の見解です」と書いておくと、誤解が減ります
(ただし、何を書いてもよいという意味ではありません)
・自社の商品・サービスにふれるときは、
社員であることが分かる形にしてください
・会社から投稿を依頼する場合は、必ず担当に相談してください
(表示のルールに関わるため)
【4. 出さないでほしい情報】
・発表前の商品・価格・取引先など、未公開の情報
・お客様の氏名・写真・注文内容など、個人が特定できる情報
・社内資料、システム画面、会議のホワイトボード
・職場写真の「背景」に写り込んだもの(伝票・モニター・名札・社員証)
・同僚が写った写真(本人の了解を得てから)
【5. 迷ったとき】
・投稿前に、SNS担当(○○/内線・チャット)に声をかけてください
・迷ったら「出さない」を選んで大丈夫です
・相談したことを、マイナスに評価することはありません
・出したあとで気づいたときも、責めません。まず知らせてください
(○○年○月版|内容は必要に応じて見直します)
冒頭の3行と、末尾の「責めません」。この2か所があるだけで、同じ内容でも読まれ方がまるで変わります。ルールの厳しさより、渡すときの体温のほうが、実は効きます。
あなたへの影響
- 「これ投稿していいですか」が、事故ではなく相談として先に届くようになる
- 社員が萎縮せず、会社のことを前向きに発信しやすくなる
- 未公開情報や写り込みの事故が、悪意ゼロのミスから起きにくくなる
- 何かあったとき、担当ひとりの判断で背負わずに済む
- 「ルールを作っといて」の宿題に、締めつけない形で答えを返せる
明日やること
- このページのたたき台をコピーして、「○○」を自社の名前・連絡先で埋める
- 「出さないでほしい情報」の5行を、自社で起きそうな例に1つだけ書き換える
- 広報・法務(いなければ上司)に、たたき台のまま15分だけ見てもらう
- 全社配布の前に、身近な2〜3人に読んでもらって「怖くないか」を聞く
いきなり完成版を作ろうとしなくて大丈夫です。1枚のたたき台があるだけで、社内の議論はぐっと進みます。
ソーシャルメディアポリシー チェックリスト
まず1枚を作る(今日ここまで)
- 対象が「私的アカウント」だとはっきり書けている
- 制限より先に、「会社が口を出さないこと」を書いている
- 出してほしくない情報が、現場でイメージできる粒度になっている
- 相談先と「迷ったら出さないでOK」が書いてある
- 「あとで気づいたときも責めない」の一文がある
渡す前に確かめる
- 読んだ人が「監視される」と感じない書き方になっている
- 自社商品にふれる投稿の扱いを、広報・法務に確認している
- 会社から投稿を依頼する場合の相談ルートを書いている
- 版(○○年○月版)を入れて、見直す前提にしている
- 全社配布の前に、身近な数人に読んでもらっている

社員の私的なSNSは、本来こわいものではありません。会社のことを、いちばん近くで知っている人たちが、自分の言葉で発信できる場でもあります。それを萎縮させずに、事故だけをそっと減らす。ポリシーは、そのための線引きです。
一度で完璧な規程を作らなくて大丈夫です。まずA4・1枚。「ここまでは自由です」と書けたなら、それだけで、この1枚はもう社員の味方になっています。「なんかルール作っといて」の一言から、ちゃんと人を守る側の1枚を作ろうとしている——その時点で、あなたはもう十分いい仕事をしています。
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