「社員のSNSのルールを作っておいて」と急に頼まれ、私生活をどこまで縛っていいのか迷いながら白紙のメモに向かう企業SNS担当者の情景

ソーシャルメディアポリシーの作り方|社員の私的SNS利用ルール1枚

「社員のSNS、なんかルール作っといて」。

会議のあと、上司から軽い調子でそう振られて、席に戻ってから固まってしまう。だって、社員が休日に何を投稿するかは、本来その人の自由です。そこに会社がどこまで口を出していいのか、正解が見えませんよね。かといって「何もない」ままだと、いつか誰かの投稿でヒヤッとする日が来るかもしれない——その板挟みで、白紙のメモを前に手が止まる。

その迷いは、まっとうな迷いです。ソーシャルメディアポリシーは、社員を取り締まるための書類ではありません。「ここまでは自由、ここからは会社に相談」の線を先に引いておくことで、社員が安心して発信できるようにするための1枚です。ここでは、締めつけずに、それでも事故を減らせる作り方を一緒に整理していきます。

結論:禁止リストから作らないことです。「守る対象は社員のほう」という立場をはっきりさせて、次の順番で決めていきます。

そもそも、なぜ「私的アカウント」のルールがいるのか

社内のSNS運用ガイドラインは、会社の公式アカウントを守るものです。でも、実際にヒヤッとする場面は、公式アカウントの外側でも起こります。

大事なのは、これらのほとんどが悪意ではなく「知らなかった」から起きているということです。社員は、会社に迷惑をかけようと思って投稿していません。ただ、どこからがまずいのかを教わっていないだけです。

だからポリシーの役割は、責めることではなく、線を先に見せておくこと。ルールがないまま事故が起きると、いちばん困るのは投稿した本人です。あとから「常識で考えてよ」と言われるのは、あまりに酷ですよね。ポリシーは、その「あとから責められる」から社員を守る側にあります。

ポリシーに入れる5つの要素

ソーシャルメディアポリシーに入れる5つの要素を「範囲・自由・明かす・出さない・相談」の順に並べた構成図
この5つだけで、A4・1枚は十分に成立します。2つ目の「自由」を先に書くのが、締めつけない1枚のコツ。

ポリシーというと分厚い規程を想像しますが、最初はA4・1枚で十分です。入れるのは、次の5つだけ。

  1. 範囲:誰の・どのアカウントの話か
  2. 自由:会社が踏み込まないことの明記
  3. 明かす:会社の立場との関係をどう示すか
  4. 出さない:外に出してはいけない情報
  5. 相談:困ったときの窓口と「止めていい」

1. 範囲|「これは私的アカウントの話」とはっきり書く

いちばん最初に、対象をはっきりさせます。ここが曖昧だと、読む人は「監視されるのかな」と身構えてしまいます。

とくに3つ目は、書いておくと空気が変わります。「アカウントを申告しろ」という運用は、社員の心理的な負担が大きいわりに、実務上ほとんど機能しません。会社の公式アカウント側のルールをまだ1枚にできていなければ、「企業SNSのトーン&マナーガイドの作り方」から先に整えるとスムーズです。

2. 自由|「ここには踏み込まない」を先に書く

ここが、この1枚でいちばん大事なところかもしれません。ルールを渡されると、人はまず「何を禁止されるんだろう」と身構えます。だから、制限より先に自由を書きます

■ 会社が口を出さないこと

・休日や勤務時間外に、何をどれだけ投稿するかは自由です
・趣味・私生活・友人とのやりとりに、会社は関与しません
・会社への意見や不満を持つこと自体を、禁止するものではありません
・このポリシーは、社員の発言を監視するためのものではありません

社員の私生活上の言動を会社が広く制限することには、法律上も限界があると一般に説明されています(労働契約や就業規則との関係は会社ごとに事情が異なります)。だからこそ、書けるのは「業務や会社の情報に関わる部分だけ」です。そこを自分たちで先に宣言しておくと、ポリシーが「監視の道具」ではないことが伝わります。

3. 明かす|社名を出すとき・自社商品にふれるとき

私的アカウントでも、社員だと分かる状態で発信すると、その投稿は会社の意見として受け取られることがあります。ここは、ふたつに分けて考えると整理しやすいです。

(a) プロフィールや投稿で会社名を出す場合

「個人の見解であり、所属する組織の見解ではありません」といった一文をプロフィールに置く運用は広く行われています。ただし、この一文があれば何を書いてもいい、という免罪符ではありません。読んだ人がどう受け取るかは、書き手側では決められないからです。「書いておくと誤解が減る」くらいの位置づけで伝えるのが誠実だと思います。

(b) 自社の商品・サービスをすすめる場合

ここは少し慎重に扱いたいところです。景品表示法では、事業者の表示なのに、それが分からない形で行われるもの(いわゆるステマ)が2023年10月から規制の対象になっています。社員が自社商品をすすめる投稿も、会社の関与の度合いによっては「事業者の表示」とみなされることがあるとされています。

判断は個別の事情によるので、ここで白黒つけようとしないでください。ポリシーには「自社商品にふれるときは、社員であることが分かる形にする」「投稿を会社から依頼する場合は、必ず担当に相談する」と書いておき、実際の判断は広報・法務と、消費者庁の運用基準といった一次情報で確認します。表記の考え方そのものは「ステマ規制を踏まえたPR表記のルール」で整理しています。

4. 出さない|情報の線引きだけは、はっきりと

自由を広く認めるぶん、ここだけは具体的に書きます。抽象的な「機密情報の漏洩を禁止する」ではなく、現場でイメージできる粒度にするのがコツです。

とくに写り込みは、悪意ゼロで起きる代表格です。「SNS投稿の写り込みチェック」で挙げた確認ポイントは、公式アカウントだけでなく社員の私的投稿にもそのまま使えます。ポリシーにリンクを1本そえておくと、読んだ人がすぐ動けます。

5. 相談|「迷ったら止めていい」を書き添える

社員が投稿してよいか迷ったときに、責められず気軽に担当者へ相談できるようすを示した図

ルールをどれだけ書いても、現実には必ず「これ、どっちだろう」が出ます。そのときに相談してもらえるかどうかで、事故の数はかなり変わります。

最後の2つは、必ず入れてほしいところです。人は、怒られるのが怖いと相談しません。そして相談されないまま時間が経つほど、対応は難しくなります。「先に言ってくれてありがとう」が成立する空気が、いちばんの安全装置です。万一のときの動き方は「企業SNSの炎上対応フロー」にまとめてあります。

そのまま使える|ソーシャルメディアポリシーのたたき台

コピーして、自社の言葉に直して使ってください。「○○」の部分だけ埋めれば、たたき台としては形になります。

■ ソーシャルメディアポリシー(社員の私的なSNS利用について)/○○社

このポリシーは、みなさんの発信を制限するためのものではありません。
知らないまま事故に巻き込まれて、あとから責められることがないように、
「ここまでは自由」「ここは相談」の線を、先にはっきりさせておくためのものです。

【1. 対象】
・社員が個人として利用しているSNSアカウント
・会社の公式アカウントは対象外(別途、運用ガイドラインに従います)
・会社は、私的アカウントの申告・提出を求めません

【2. 会社が口を出さないこと】
・勤務時間外に、何をどれだけ投稿するかは自由です
・趣味・私生活・交友に、会社は関与しません
・このポリシーは、社員の発言を監視するためのものではありません

【3. 会社名を出して発信するとき】
・プロフィールに「個人の見解です」と書いておくと、誤解が減ります
  (ただし、何を書いてもよいという意味ではありません)
・自社の商品・サービスにふれるときは、
  社員であることが分かる形にしてください
・会社から投稿を依頼する場合は、必ず担当に相談してください
  (表示のルールに関わるため)

【4. 出さないでほしい情報】
・発表前の商品・価格・取引先など、未公開の情報
・お客様の氏名・写真・注文内容など、個人が特定できる情報
・社内資料、システム画面、会議のホワイトボード
・職場写真の「背景」に写り込んだもの(伝票・モニター・名札・社員証)
・同僚が写った写真(本人の了解を得てから)

【5. 迷ったとき】
・投稿前に、SNS担当(○○/内線・チャット)に声をかけてください
・迷ったら「出さない」を選んで大丈夫です
・相談したことを、マイナスに評価することはありません
・出したあとで気づいたときも、責めません。まず知らせてください

(○○年○月版|内容は必要に応じて見直します)

冒頭の3行と、末尾の「責めません」。この2か所があるだけで、同じ内容でも読まれ方がまるで変わります。ルールの厳しさより、渡すときの体温のほうが、実は効きます。

あなたへの影響

明日やること

  1. このページのたたき台をコピーして、「○○」を自社の名前・連絡先で埋める
  2. 「出さないでほしい情報」の5行を、自社で起きそうな例に1つだけ書き換える
  3. 広報・法務(いなければ上司)に、たたき台のまま15分だけ見てもらう
  4. 全社配布の前に、身近な2〜3人に読んでもらって「怖くないか」を聞く

いきなり完成版を作ろうとしなくて大丈夫です。1枚のたたき台があるだけで、社内の議論はぐっと進みます。

ソーシャルメディアポリシー チェックリスト

まず1枚を作る(今日ここまで)

渡す前に確かめる

ソーシャルメディアポリシーの1枚ができ、社員が安心して自分の言葉で発信できるようになった前向きな情景

社員の私的なSNSは、本来こわいものではありません。会社のことを、いちばん近くで知っている人たちが、自分の言葉で発信できる場でもあります。それを萎縮させずに、事故だけをそっと減らす。ポリシーは、そのための線引きです。

一度で完璧な規程を作らなくて大丈夫です。まずA4・1枚。「ここまでは自由です」と書けたなら、それだけで、この1枚はもう社員の味方になっています。「なんかルール作っといて」の一言から、ちゃんと人を守る側の1枚を作ろうとしている——その時点で、あなたはもう十分いい仕事をしています。

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