
企業SNS運用の予算の立て方|費用の内訳と社内で通す説明の仕方
「来期、SNSっていくら必要?」
会議でそう聞かれて、うまく答えられなかったこと、ありませんか。
正直なところ、いまは無料の範囲でなんとか回している。だから「特にかかっていません」と言ってしまった。でも本当は、素材を探す時間も、画像を作る時間も、全部あなたの手と時間で埋めている——そんな状態かもしれません。
金額を出せなかったのは、相場を知らないからではありません。いま自分の運用に何がいくらかかっているのか、誰も数えたことがないからです。数えていないものは、当然、説明もできません。
結論:SNSの予算は、他社の相場から引いてくるのではなく、自社の運用を棚卸しして組み立てるほうが通りやすくなります。
① いま「かかっていないことになっている費用」を数える(あなたの時間を含めて)
② 費目を ツール・素材・広告・外注 の4つに分けて、自社の見積もりを埋める
③ 「いくらほしい」ではなく「何が詰まっていて、いくらで外れるか」の形にして出す
この記事では、この3ステップと、そのまま使える説明文の型を整理します。読み終えたら、今日30分で「うちのSNSは年間いくらの仕事か」の下書きが作れます。
なぜ企業SNSの予算は通りにくいのか
まず、何が起きているのかを整理します。責められるところは、たぶんひとつもありません。
1. 成果が売上と直接つながって見えにくい
SNSは、知ってもらう・思い出してもらう・信頼してもらう、といった仕事が中心です。効果はあっても、「この投稿でいくら売れた」の形にはなりにくい。予算を判断する側からすると、金額の妥当性を測るものさしがない状態です。
2. 「無料でできている」ように見えている
いちばん大きいのはこれかもしれません。アカウント開設は無料。投稿も無料。だから会社の帳簿の上では、SNSは0円の活動に見えます。
でも実際には、無料ではありません。あなたの時間で払っています。 ただ、その支払いが誰の目にも見えていないだけです。
3. 相場がわからないので、金額を口に出せない
「いくらください」と言うには、根拠がいります。根拠が用意できないと、聞かれても「特に必要ないです」と答えるほうが安全に感じます。その結果、来期もまた0円で、同じ苦労が続く。
ここを抜けるには、順番を変えます。相場を調べる前に、自社を数える。 数えたものが、そのまま根拠になります。
ステップ1:いま「かかっていないことになっている費用」を数える
最初にやるのは、見えていない支払いを見えるようにすることです。
時間を、金額に置き換えてみる
まず、SNS運用にかけている時間を1週間ぶん書き出します。ざっくりで大丈夫です。
- ネタを考える時間
- 文章を書く時間
- 画像・動画を作る時間
- 投稿・予約設定の時間
- コメントやDMに返す時間
- 数字を見る・報告する時間
合計が出たら、時間あたりの金額をかけます。ここで使うのは、あなた個人の給与ではなく、社内で使われている一般的な時間単価(人件費の目安)にしておくと角が立ちません。総務や経理に「社内の時間単価っていくらで見てますか」と聞けば、たいてい教えてもらえます。
計算の形はこれだけです。
月あたりの人件費相当 = 週の作業時間 × 4週 × 時間単価
たとえば、週5時間・時間単価2,500円で見た場合。
- 月の作業時間:5時間 × 4週 = 20時間
- 月あたり:20時間 × 2,500円 = 50,000円
- 年間:50,000円 × 12か月 = 600,000円
つまり、「無料でやっている」と思われていたSNS運用は、会社から見れば年間60万円ぶんの仕事をすでに使っている、ということになります。
数字は必ず自社の値で置き換えてください。週2時間・単価2,000円なら、月は 2 × 4 × 2,000 = 16,000円、年間で 192,000円 です。桁が変われば話も変わります。
これは「文句」ではなく「事実」として置く
この数字を出すことに、少しためらいがあるかもしれません。「自分の人件費を持ち出すと、大げさに聞こえないだろうか」と。
でも、これは待遇の話ではありません。会社がすでに投じている資源の話です。資料には、こう添えておくと受け取られ方が変わります。
現状、SNS運用にかかっている費用は月◯円(作業時間◯時間ぶんの人件費相当)です。ここに現金の支出はありませんが、実際にはこれだけの工数を使っています。
責める文でも、要求の文でもありません。ただ事実を置いた文です。ここが出発点になります。
作業時間そのものがつかめていないときは、先に1〜2週間だけ記録してみてください。時間の減らし方はこちらにまとめています。→ 企業SNS運用でやめていい作業リスト
ステップ2:費目を4つに分けて、自社の見積もりを埋める
次に、これから必要になるお金を並べます。ばらばらに書くと「あれもこれも」に見えてしまうので、4つの箱に分けます。

| 費目 | 中身の例 | 金額の考え方 |
|---|---|---|
| ツール | 予約投稿ツール、画像編集、分析ツール、素材サイト | 月額×12か月。無料枠で足りない機能が何かを1行で書く |
| 素材 | 写真・動画の撮影、有料素材、簡単な備品(照明・スマホ用三脚など) | 年に何回撮るか×1回あたり。単発費用なので通しやすい |
| 広告 | 投稿のブースト、少額のSNS広告 | 月いくらまで、と上限を決めた形で出す |
| 外注 | 制作の一部代行、運用支援、デザイン、動画編集 | 何を任せるかを1つに絞って、単価×本数で |
金額は、ネット上の相場を書き写さないでください。ツールの料金プランも、外注の単価も、時期によって変わります。実際に使う予定のサービスの公式ページで、そのときの料金を確認して埋めるのがいちばん確実です。見積もりが取れるものは、1社でいいので取っておくと、資料の説得力がまるで違います。
全部の箱を埋めなくていい
4つ並べましたが、初回から全部に金額を入れる必要はありません。いま自分がいちばん詰まっている箱から1つだけ選んで、そこに数字を入れる。それで十分です。
- 投稿の時間がいちばん苦しい → ツール(予約投稿で作業をまとめられる)→ SNS予約投稿ツールの選び方
- 使える写真がなくて毎回困っている → 素材(撮影を年2回、まとめて)→ SNS運用の素材管理|画像を探す時間をなくす保管と命名のルール
- 届く人数を増やしたい → 広告(少額から試す)→ 企業SNS広告を少額から始める|投稿のブースト活用と最初の設計
- 制作が物理的に回らない → 外注(一部だけ任せる)→ SNS運用の外注・発注の進め方|依頼テンプレと権利の確認ポイント
なお、有料に踏み切る前に無料でどこまでやれるかを見ておくと、「無料では足りない理由」も一緒に書けます。→ SNS投稿画像の作り方|無料ツールで手早くきれいに整える手順
ステップ3:「詰まり」と「外れ方」の形にして出す
ここが、通るかどうかの分かれ目です。
同じ金額でも、伝え方でまったく違って聞こえます。
通りにくい言い方
SNS運用のツール代として、年間◯万円をお願いしたいです。
通りやすい言い方
現在、投稿の作成と投稿作業に月20時間かかっています。うち約6時間は、投稿時刻に合わせて手作業で投稿するための待機と作業です。予約投稿ツール(年間◯万円)を入れると、この6時間を月2時間ほどに減らせる見込みです。空いた時間は、反応の良かった投稿の分析と改善に充てます。
違いは、金額の大小ではありません。「何が詰まっているか」→「いくらで」→「どう外れるか」→「空いたぶんで何をするか」の順に並んでいるかどうかです。
そのまま使える1枚の型
稟議書でも、口頭の説明でも、この6行があれば形になります。
【現状】
SNS運用に月◯時間かかっています(人件費相当・月◯円)。
現金の支出は現在0円です。
【詰まっているところ】
◯◯に月◯時間かかっており、投稿の改善に手が回りません。
【打ち手】
◯◯(ツール名/撮影/外注内容)を導入します。
【金額】
初年度 ◯円(内訳:◯円/月 × 12か月)。上限は◯円までとします。
【やめること・減ること】
◯◯の作業が月◯時間減る見込みです。
【効果の見方】
◯か月後に、△△(指標名)で振り返り、続けるかを判断します。
「やめること・減ること」の行は、忘れずに入れてください。予算の話は、増やす話だけだと止まりやすく、減る話がセットだと動きやすいという傾向があります。
そして「効果の見方」を自分から先に約束しておくと、判断する側の不安が減ります。どの指標で見るかは、目的から逆算して選びます。→ 企業SNSのKPI|フォロワー数より目的別に見る指標の選び方
金額の説得力を上げる、3つの小さな工夫
1. 3案を並べて、選んでもらう形にする
1案だけ出すと「やるか、やらないか」の判断になります。3案あると「どれにするか」の相談になります。
| 案 | 内容 | 年間 |
|---|---|---|
| A案(0円) | 現状のまま。手作業を続ける | 0円 |
| B案(最小) | 詰まっている1つだけ解消する | ◯円 |
| C案(推奨) | B案+撮影を年2回入れる | ◯円 |
A案をきちんと書くのがコツです。「0円でも回りますが、そのぶん月◯時間の手作業が残ります」と正直に書く。比較の土台があると、B案が急に現実的に見えてきます。
2. 期間を区切って「お試し」にする
年間契約の話にすると、判断が重くなります。「まず3か月」「上限◯円まで」と区切ると、決裁のハードルはぐっと下がります。3か月後に数字を持って再提案すれば、次はもっと通しやすくなります。
3. 実績を1つだけ持っていく
大きな成果でなくて大丈夫です。「先月いちばん反応があった投稿はこれで、問い合わせが1件ありました」——それだけで、話が具体になります。月次で振り返る型があると、この材料が自然にたまります。→ 企業SNSの月次レポート|30分で作るテンプレと載せる項目
上司にどう伝えるかで迷ったら、報告の組み立て方をこちらにまとめています。→ SNSの成果を上司に伝える報告の組み立て方|数字を成果の言葉に
資料そのものの作り方は、こちらが土台になります。→ 企業SNS運用を社内で通す提案資料の作り方|承認される組み立て方
通らなかったときに、できること
出しても通らないことは、普通にあります。会社全体の予算が厳しい年もあれば、優先順位の問題のこともあります。
そのときに覚えておきたいのは、通らなかったのは、あなたの説明が下手だったからとは限らないということです。判断には、あなたの見えないところの事情も混ざっています。
通らなかったときにできることは、3つあります。
- 数えた資料は残しておく:来期また同じことを聞かれます。そのとき、ゼロから作らなくて済みます。
- やめる作業を作る:予算が増えないなら、時間を作るしかありません。減らす判断も、立派な運用改善です。→ 企業SNS運用でやめていい作業リスト
- 小さく実績を作って、半年後にもう一度出す:一度断られた提案が、数字を1つ足しただけで通ることはよくあります。
そして、日々の運用そのものは、無料の範囲でも十分に続けられます。→ 兼務でも回る「1日15分」企業SNS運用ルーティンの作り方
明日やること(30分)
明日やるのは、この3つだけで十分です。
- 直近1週間、SNSに使った時間をざっくり書き出す(15分あれば足ります)
- 社内の時間単価を1つ決めて、「週の時間 × 4 × 単価」で月額を出す
- 4つの箱のうち、いちばん詰まっている1つを選んで、公式サイトで料金を確認する
ここまでで、資料の骨組みは半分できています。金額を埋めるのは、そのあとで大丈夫です。
チェックリスト(保存用・SNS予算の組み立て)
- 現状を数える
- 1週間ぶんの作業時間を書き出した
- 社内で使われている時間単価を確認した
- 「週の時間 × 4週 × 単価」で月額を計算した
- 年額(月額 × 12)まで出した
- 現金支出が今いくらあるかも確認した(すでに使っているツールなど)
- 費目を並べる
- ツール・素材・広告・外注の4つに分けた
- いちばん詰まっている箱を1つ選んだ
- 金額は公式サイトの最新料金で確認した(相場の書き写しにしていない)
- 見積もりが取れるものは1社取った
- 説明を組み立てる
- 「現状 → 詰まり → 打ち手 → 金額 → やめること → 効果の見方」の順になっている
- 減る時間・減る作業を書いた
- 振り返る指標と時期を、自分から先に決めた
- 上限額を明記した
- 3案(0円・最小・推奨)を並べた
- まず3か月、などの区切りを入れた
- 出したあと
- 通らなかった場合の資料の保管場所を決めた
- 次に出すタイミング(半年後など)をカレンダーに入れた
全部埋まらなくて大丈夫です。「週の作業時間 × 4 × 単価」の1行さえ出せていれば、会議で言葉に詰まることはもうありません。
よければ、こちらも
- ▶ 企業SNS運用を社内で通す提案資料の作り方|承認される組み立て方
- ▶ SNSの成果を上司に伝える報告の組み立て方|数字を成果の言葉に
- ▶ 企業SNS運用でやめていい作業リスト|がんばりすぎない見直し方
「うちの予算、これで説明できるかな」と迷ったら。企業SNS運用の実務ヒントを、メールでもお届けしています。よかったら受け取ってみてください。

予算を取ることは、わがままを言うことではありません。 すでにあなたが払っているものを、会社にちゃんと見えるようにする仕事です。
無料でここまで回してきた、その事実自体が、いちばん強い材料になります。ゼロ円で成り立たせてきた人の「これだけ時間がかかっています」という言葉には、重みがあります。
金額が通るかどうかは、正直、そのときの会社の事情もあります。それでも、数えた記録は残ります。次に聞かれたとき、あなたはもう黙らなくて済みます。
まずは、今週の作業時間を書き出すところから。それだけで、来期の会話は変わりはじめます。