
企業のインフルエンサー施策|依頼前に決める5つと社内調整の進め方
「うちもインフルエンサーさんに頼んでみたら?」
会議のあと、上司からそんな一言をもらって、席に戻ってから固まってしまった——そんな経験、ありませんか。
やってみたい気持ちはある。でも、誰にどう声をかけるのか。いくらかかるのか。ステマ規制って結局どうすればいいのか。そもそも、社内で誰にハンコをもらえばいいのか。調べはじめると、決めなければいけないことがどんどん増えていって、結局そのまま数週間、という話は本当によく聞きます。
先にお伝えしておくと、この施策でつまずくところは、「いい人が見つからないこと」ではありません。ほとんどは、依頼を出す前に決めていなかったことが、あとから追いかけてきて起きています。逆に言えば、決めるところを先に決めてしまえば、あとの進行はかなり静かになります。
今日は、その「先に決める5つ」と、社内をどう通すかを一緒に整理していきます。契約書の細かい話には踏み込みません。ひとりで兼務しながらでも進められる範囲に絞ります。
結論:インフルエンサー・アンバサダー施策は、次の3つを先にやると崩れにくくなります。
① 目的を1つだけ決める(認知/来店/購入/採用のどれか。全部は狙わない)
② 依頼前に「5つ」を紙1枚にまとめる(目的・お願いする内容と条件・PR表記・投稿を自社で使ってよい範囲・窓口と期限)
③ 社内は「誰が決裁して、誰が確認するか」を先に押さえる(あとから確認者が増えるのがいちばん止まる原因)
相手探しは、このあとで大丈夫です。順番を逆にすると、たいてい戻ります。
なぜ「相手探し」から始めると止まるのか
多くの場合、最初にやってしまうのは相手探しです。フォロワー数の多いアカウントを探して、リストを作って、上司に見せる。とても自然な流れだと思います。
ただ、ここから始めると、次のような質問が返ってきます。
- 「で、これって何が目的なの?」
- 「予算はいくらで見てる?」
- 「もし炎上したら、誰が対応するの?」
- 「PR表記って、うちは何か決まりある?」
どれも、リストを作る前に決めておくべきことばかりです。そして、この質問に答えられないと、リストは差し戻されます。あなたの調べ方が足りなかったわけではありません。着手する順番が、たまたま逆だっただけです。
もうひとつ。インフルエンサー施策は、社外の人に自社の名前で発信してもらう施策です。社内の投稿ルールがそのまま外の人に適用できるわけではないので、いつもの投稿承認フローとは別に、少しだけ手前の整理が必要になります。ここを飛ばすと、投稿が出たあとで「これ、聞いてないんだけど」が発生しやすくなります。
順番を入れ替えるだけで、この摩擦はかなり減らせます。次から、その順番を見ていきましょう。
ステップ1:目的を1つだけ決める
まず、この施策で何が起きたら成功なのかを1つに決めます。
複数狙いたくなる気持ちはよく分かります。でも、目的が2つ以上あると、相手の選び方も、お願いする内容も、あとで見る数字も、全部ぼやけます。今回はこれ、と割り切ってしまうほうが結果的にうまくいきます。
| 目的 | 向いている依頼の形 | あとで見る数字の例 |
|---|---|---|
| 知ってもらう(認知) | 商品やサービスを使った感想の投稿 | リーチ・再生数・保存数 |
| お店に来てもらう(来店) | 実際に来店してもらい、様子を投稿 | 来店数・クーポン利用・地図アプリの経路検索 |
| 買ってもらう(購入) | 使い方や比較を含むレビュー投稿 | 専用リンク経由の訪問・購入数 |
| 働き手に届ける(採用) | 職場の雰囲気や仕事内容の紹介 | 採用ページへの流入・応募数 |
「知ってもらう」を選んだのに、あとから「で、売上はどうなった?」と聞かれるのがいちばんつらいパターンです。そうならないように、目的と一緒に「今回は売上では測りません」も先に共有しておくと、あとが楽になります。
数字の選び方でもう少し迷うときは、企業SNSのKPI|フォロワー数より目的別に見る指標の選び方も参考にしてみてください。
ステップ2:依頼の前に決める5つ
ここが今日の中心です。以下の5つを、紙1枚(またはドキュメント1ページ)にまとめてしまいます。分量は多くなくて大丈夫です。箇条書きで十分です。
① 目的と、成功の形
ステップ1で決めたものを1行で書きます。「新商品◯◯を、20〜30代の一人暮らし層に知ってもらう」くらいの粒度で構いません。
② お願いする内容と条件
いちばん具体的に書くところです。あとで「言った・言わない」になりやすい部分なので、数字で書けるものは数字にします。
- 投稿してほしいSNSと本数(例:Instagramのフィード1本+ストーリーズ2本)
- 投稿してほしい時期(例:9月10日〜9月20日のあいだ)
- 入れてほしい要素(例:商品名、使っている場面、リンク)
- 入れてほしくない要素(例:効果を断定する言い方、他社との比較、価格の言及)
- お礼の形(報酬・商品提供・その両方か)
「入れてほしくない要素」を書いておくのが地味に効きます。相手を縛るためではなく、あとから修正をお願いする回数を減らすためです。修正依頼は、お互いにいちばん気を使うやり取りなので、先回りしておくとお互いに楽になります。
③ PR表記をどうするか
ここは、決めるというより必ず入れる項目です。
企業が依頼して投稿してもらう場合、その投稿が広告・宣伝であることが一般の人に分かる形になっている必要があります。日本では2023年10月に景品表示法のいわゆる「ステマ規制」が始まり、事業者が投稿内容の決定に関わっている場合、広告だと分からない表示は問題になり得ます。
そして押さえておきたいのが、この規制で責任を問われるのは、依頼した事業者(=あなたの会社)側だという点です。投稿してくれた個人ではありません。だからこそ、依頼書に「PR表記をお願いします」の一文を入れるのは、相手を守ることでもあり、自社を守ることでもあります。
具体的な書き方(#PR の位置、動画やストーリーズでの見せ方など)は企業SNSのPR表記ルール|ステマ規制を踏まえた書き方にまとめています。運用の基準は消費者庁が公表しているので、判断に迷うケースは公式情報と自社の法務・広報の方針で確認してください。
④ 投稿を自社で使ってよい範囲
意外と抜けやすいのがここです。
相手が投稿してくれた写真や動画を、自社のアカウントでリポストしたい/広告に使いたい/サイトに載せたい——このあたりは、後から「実は聞いていなかった」となりがちです。
依頼の時点で、次を確認しておきます。
- 自社アカウントでのリポスト(引用・シェア)はしてよいか
- 画像や動画を保存して、自社の投稿素材として使ってよいか
- 使ってよい期間はいつまでか(例:投稿日から1年)
- 広告に使う場合は別途相談が必要か
一般の方の投稿を活用するときの考え方はUGCの活用と許可の取り方、写真そのものの権利については著作権・肖像権の確認ポイントも合わせてどうぞ。外部の制作会社を挟む場合は、外注時の役割と権利の整理の考え方がそのまま使えます。
⑤ 窓口と期限
「誰が、いつまでに、何を返すか」を決めます。ひとり運用だと自分が全部やることになりがちですが、自分が動けない日をどうするかまで書いておくと安心です。
- 相手とのやり取りをする人(=窓口)
- 社内で最終的に決める人(=決裁者)
- 投稿内容を確認する人(広報・法務など)
- 各段階の期限(依頼→返事→投稿案の確認→投稿日)
ステップ3:社内は「決裁」と「確認」を分けて押さえる
社内調整でいちばん時間を食うのは、あとから確認者が増えることです。「一応、法務にも見せておいて」が投稿予定日の2日前に出てくると、もうどうにもなりません。
なので、動き出す前に、この3つの役割を先に押さえます。

- 窓口:相手とやり取りする人。基本はあなたです。連絡経路を一本にすると事故が減ります。
- 決裁:予算と実施の可否を決める人。ここが曖昧だと、話が進んでから止まります。
- 確認:投稿案や表記をチェックする人(広報・法務など)。「見てもらうタイミング」と「返してもらう期限」までセットで決めるのがコツです。
上司への説明で使える言い方の例です。
「◯◯の認知を目的に、インフルエンサーさんへの依頼を1件試してみたいと考えています。予算は◯万円、期間は1か月、成果はリーチと保存数で見ます。依頼内容と表記のルールはこの1枚にまとめました。決裁を◯◯さん、投稿案の確認を広報の◯◯さんにお願いしたいのですが、いかがでしょうか」
ポイントは、「試してみたい」と規模を明示することです。いきなり大きく始めようとすると判断が重くなります。1件だけの小さな試行なら、社内も判断しやすくなります。
予算の通し方はSNS運用の予算・費用を社内で確保する説明の仕方、提案資料の組み立てはSNS運用の社内提案資料の書き方にまとめています。
ステップ4:相手を選ぶ|フォロワー数は「3番目」に見る
ここまで決めてから、ようやく相手探しです。見る順番はこうしています。
- フォロワー層と、自社が届けたい人が重なっているか(いちばん大事)
- 投稿の雰囲気が、自社のトーンと大きくずれていないか
- フォロワー数と、反応の量のバランス
3番目に置いているのには理由があります。フォロワー数が多くても、反応がほとんどない場合、届く実感は思ったより小さくなります。逆に、フォロワー1万人未満でも、コメントが活発なアカウントのほうが、狭く深く届くことがあります。
数字の比べ方としては、エンゲージメント率 計算機で相手アカウントの直近数本を計算してみると、規模の違うアカウント同士でも比べやすくなります。
そして、これは必ず見ておきたいところです。
- 過去の投稿に、自社として困る内容がないか(数か月分をさかのぼる)
- PR案件のときに、きちんと表記しているか
- フォロワーとのやり取りが荒れていないか
厳しく審査する、という話ではありません。お互いに気持ちよく終われる相手かどうかを確かめる作業です。ここを見ておくと、投稿後にヒヤッとする確率がぐっと下がります。
ステップ5:依頼メッセージの型
そのまま使える形にしておきます。長すぎない、でも決めたことは全部入っている、くらいが読みやすいと思います。
◯◯さま
はじめまして。株式会社◯◯でSNSを担当しております、◯◯と申します。
突然のご連絡失礼いたします。◯◯についての投稿をいつも拝見しており、◯◯という視点がとても印象に残っていました。
このたび、弊社の◯◯(商品・サービス名)について、ご紹介の投稿をお願いできないかと思いご連絡しました。差し支えなければ、下記の内容でご検討いただけますでしょうか。
・お願いしたい内容:◯◯(SNS名)にて投稿◯本
・時期:◯月◯日〜◯月◯日ごろ
・入れていただきたいこと:商品名/お使いいただいた場面
・お控えいただきたいこと:効果を断定する表現/他社製品との比較
・PR表記:広告であることが分かる表記(#PR など)をお願いしております
・投稿の二次利用:弊社アカウントでのリポスト・素材としての利用をご相談させてください(範囲・期間はご相談のうえ決定します)
・お礼:◯◯(金額・商品提供など)
ご検討いただけそうであれば、詳細をあらためてご案内いたします。ご都合やご希望があれば、遠慮なくお知らせください。
お忙しいところ恐れ入りますが、◯月◯日ごろまでにお返事いただけますと幸いです。
金額や契約の条件が絡む場合は、必ず社内の法務・経理の確認を通してください。相手が事業者の場合は、契約書や発注書の形が必要になることもあります。
ステップ6:投稿の前後にやること
投稿案が届いてからの流れも、先に決めておくと慌てません。
投稿前
- PR表記が、見ればすぐ分かる場所にあるか(末尾のハッシュタグの海に埋もれていないか)
- 効果や優位性を断定する表現になっていないか(「必ず◯◯になる」など)
- 写り込みに問題がないか(他社の商品・第三者の顔・個人情報)
- 修正のお願いは、「決めた条件と違うところ」だけに絞る
表現の直しは、相手の言葉づかいまで書き換えないほうが結果的にうまくいきます。その人の言葉だからこそ届く、という前提で始めた施策なので、整えすぎると別のものになってしまいます。
投稿後
- 自社アカウントで反応する(コメントやシェア。放置しない)
- 決めた数字を記録する(投稿直後・3日後・1週間後の3回で十分)
- 万一コメント欄が荒れた場合の一次対応を誰がするかを確認しておく(炎上対応フローの一次対応の型がそのまま使えます)
- お礼を伝える(次につながります)
成果をリンク経由で見たいときは、UTMパラメータでSNS経由の成果を計測する基本設定を使うと、あとの報告がぐっと楽になります。
あなたへの影響
- 依頼前に5つを決めておくと、社内からの質問にその場で答えられるようになり、差し戻しの往復が減ります。
- 二次利用の範囲を先に決めておくと、いい投稿をしてもらえたときに、すぐ自社の素材として活かせます。あとから聞き直す気まずさもありません。
- 「決裁」と「確認」を先に押さえておくと、投稿直前に確認者が増える事故が起きにくくなり、あなたが板挟みになる時間が減ります。
- 1件の小さな試行として設計しておくと、うまくいかなかったときも「次はここを変えよう」で終われます。会社にとっても、あなたにとっても、傷が浅くて済みます。
明日やること(3つだけ)
- 今回の目的を1つだけ決めて、1行で書く(5分)
- 「依頼前に決める5つ」を、箇条書きで1枚にまとめる(20分)
- 決裁者と確認者が誰になるか、上司に口頭で聞いておく(5分)
相手探しは、この3つが終わってからで大丈夫です。今日はここまでで十分に前へ進んでいます。
チェックリスト
依頼を出す前に、さっと確認できるようにまとめました。運用メモにコピーして使ってください。
依頼を出す前
- 今回の目的を1つに絞ったか
- 成功をどの数字で見るか決めたか
- 投稿してほしいSNS・本数・時期を書き出したか
- 入れてほしくない表現を書き出したか
- PR表記をお願いする一文を依頼文に入れたか
- 投稿を自社で使ってよい範囲と期間を決めたか
- 窓口・決裁者・確認者の3人を押さえたか
- 各段階の期限を入れたか
- 相手の過去の投稿を数か月分さかのぼって見たか
- 金額や契約の条件を、社内の担当部署に確認したか
投稿の前後
- PR表記が、見てすぐ分かる場所にあるか
- 断定的な表現・第三者の写り込みがないか
- 修正のお願いを、決めた条件と違う点だけに絞ったか
- 投稿後に自社アカウントから反応したか
- 数字を記録したか(直後・3日後・1週間後)
- コメント欄が荒れたときの一次対応者を決めてあるか
- お礼を伝えたか
全部を完璧にしてから、でなくて大丈夫です
インフルエンサー施策は、外の人と一緒に作る施策です。だからこそ、社内の投稿より不安が大きくなります。「もし変な投稿になったら」「もし社内から怒られたら」——その心配は、真面目に仕事をしているからこそ出てくるものだと思います。
ただ、実際にやってみると、いちばん多いのは「思ったより静かに終わる」です。大成功も大炎上もなく、いつもより少し多くの人に届いて、コメントが数件つく。それで十分なんです。1件やってみると、次から判断がずっと速くなります。
そして、ここまで読んで「決めることが多いな」と感じたなら、それは正しい感覚です。だから今日は、5つ全部でなくていい。目的の1行だけでも構いません。1行決まれば、次の1つも自然と決まります。
社外の人に自社のことを話してもらう。よく考えると、けっこう大きな仕事です。それを、兼務しながら一人で組み立てようとしている。その時点で、あなたはもう十分に前へ進んでいます。

「うちのこのケース、どこまで決めておけばいい?」と迷ったら。企業SNS運用の実務ヒントを、メールでもお届けしています。よかったら受け取ってみてください。
よければ、こちらも
- ▶ 企業SNSのPR表記ルール|ステマ規制を踏まえた書き方:依頼した投稿にどう表記してもらうか迷ったときに
- ▶ SNS運用の予算・費用を社内で確保する説明の仕方:はじめての予算を通すときの説明の型
- ▶ UGCの活用と許可の取り方:お客様の投稿を自社で使いたくなったときに